国内の法人設立の問題点

 法人化を考えるときに、会社の種類はどれにするかという選択があります。
 日本で一般的な会社の種類は、「株式会社」「有限会社」「合資会社」「合名会社」の4つです。この中でも真っ先に頭に浮かぶ会社の種類は、「株式会社」と「有限会社」でしょう。このふたつは知らない人がまずいない、日本を代表する会社です。とりわけ株式会社は知名度や信用度でもナンバーワン、まさに会社の中の会社です。本来は、みんな迷わず株式会社をつくってしまえばよいのです。

 しかし、株式会社をつくるのはけっこう大変です。まず第一にお金がかかります。用意する資本金に最低1000万円、登記関係もなかなか自分ではできないので司法書士などにお願いすると20〜40万円。登録免許税(印紙代)が最低15万円かかります。
 それだけではありません、定款の認証に約10万円ほど必要になりますし、銀行の出資保管証明書の発行手数料にも1万円以上の費用がかかるのです。代表者印(実印)や角印、銀行印や社名スタンプなどにも数万円の費用をみておかなければならないでしょう。
 株式会社の設立時には最低1050万円くらいのお金を用意しなければならないのです。
 しかも大変なのはお金の面だけではないのです。取締役は最低3名は必要ですし、監査役も必要になります。どう考えても1人2人で簡単に始められるようにはなっていないのです。

 そこで、これらの要因をクリアできない人が次に考えるのが「有限会社」です。こちらは資本金の最低額が300万円で大丈夫です。がんばれば、自分でも登記などができます。
 しかし、登録免許税(印紙代)が最低6万、定款の認証に約10万円、出資保管証明書の発行手数料に1万円以上、印鑑などに数万円ほどかかることになります。
 有限会社の場合でも最低320万円くらいのお金を用意しておかなければなりません。仮に320万円を投じて有限会社をつくっても、やはり株式会社のようなメジャーなイメージがないのは残念です。

 最近は、株式会社や有限会社設立時の最低資本金を一時的に用立てる業者もあるようですが(もちろん高い利子が付く)、これは本来違法的な行為です。そこまでして体裁を繕いたいのでしょうか。ごまかしてつくった会社ではあまり意味がないような気がするのですが。
 また2003年からは、「一円会社(確認会社)」という時限立法の制度もできました。これは、設立から5年以内に資本金を1000万円(株式会社の場合)にすれば、設立時は1円でもよいというものです。しかし、会社を運営した経験のある人ならご存じだと思いますが、創業から5年間で1000万円からの余剰金(給与や経費や税金を差し引いた後の利益)を出すのはたやすいことではありません。確認会社になるための審査(条件)も結構厳しいものがあります。挙げ句の果てに、5年間で資本金を蓄積できないと、会社は自動的に解散させられてしまうのです。

 株式会社はもちろん、有限会社の条件もクリアできない人はどうすればいいのでしょうか?
 大丈夫、聞き慣れない名前かもしれませんが「合資会社」というのが待っています。長引く不況、最近のインターネット起業、SOHOブームで人気を集めたことがある会社形態です。
 こちらは最低資本金の額が決まっていないので、極端な話が1円の資本金でもいいことになります。
 資本金の最低額の規定が無いので、出資保管証明書などを用意する必要もありません。さらに定款の認証さえ不要なのです。登録免許税(印紙代)は6万円です。
 書類関係も比較的簡単なので、自分で登記までやってしまえばそれこそ10万円以内で会社をつくることもできます。司法書士などにお願いしても15〜20万円くらいで会社をつくることができるのです。

 ただし、合資会社の代表者は「無限責任社員」となってしまいます。会社が抱える債務に対して無限で責任を負わなくてはならないのです。株式会社や有限会社の代表者のように出資した金額分だけの責任、という図式は成り立たないのです。だからこそ最低資本金の規定がないのです。最低資本金の規定などがなくても、全債務に責任を負うことになっているのですから。
 先ほど、株式会社や有限会社の有限責任も実質上、意味はないものだと書きました。ならば合資会社の無限責任もあまり気にする必要はないのでは、と考える人もいるでしょう。
 確かに、借入金や仕入先からの負債に関しては、その責任の範囲は事実上変わらないことになります。しかし例えば、製造者責任問題(PL法)などで敗訴したときの賠償金などは、有限責任と無限責任では大きな違いが出てくるでしょう。
 現在はインターネットの世界でも、ビジネスモデル特許などの取り合いの時代です。日本もアメリカ並に特許侵害などで訴えられるケースも増えてくるでしょう。そういった事情を考慮すると、やはり「有限責任」に越したことはないと思います。

 昔は会社の設立と言えば株式会社が一般的でした。株式会社の設立時の最低資本金は35万円以上、有限会社の設立時の最低資本金は10万円以上でよかった時代があったからです。
 ところが平成3年の商法改正で株式会社・有限会社の最低資本金額がそれぞれ1000万円以上と300万円以上に引き上げられた後は、有限会社の設立が驚くほど目立ってきたのです。
 そして長引く不況下では、合資会社の設立がブームになりました。
 ひと昔前は、書店のビジネス書コーナーにいっても「株式会社設立の本」と「有限会社設立の本」しか見あたらなかったのに、ちょっと前には「合資会社設立の本」がちらほらと並び始めました。これはひとえにコストをかけずに会社を設立したい人が多いということだと思います。

 会社を設立して事業を開始する際には、電話の設置・名刺や封筒の用意など何かとお金がかかるものです。しかも、事業開始早々から大きな売上を上げるのはなかなか難しいでしょうから、会社設立にかかる費用はかなりの負担となります。できればお金をかけずに、しっかりした形を整えたいと思うのが普通でしょう。

 会社設立に手間がかかるのは日本だけの話ではないのですが、特に日本での会社設立の手間は大変なものです。設立までの決めごとや手続きを手順通りに進めなければならない、申請書類の内容(特に定款の目的欄など)を細かく決めて規定通りの書式で書かなければいけないなど、普段この手の作業に慣れていない人間はかなり苦痛に感じることでしょう。
 この点でも株式会社が一番手間がかかります、次に有限会社、そして合資会社という順で楽になるのです。設立の手間だけではなく、運営面でも同様です。
 とくに会社設立の準備期は、これからの事業の準備期とも重なることが多いでしょうし、実際に事業を開始しているところもあるでしょうから、本業以外のこれらの作業に手間をとられるのは辛いものです。

 有限会社も合資会社も、もちろん立派な法人には違いありません。しかしイメージはどうでしょうか?
 みなさんは就職や転職をするときに有限会社と株式会社のどちらに行きたいでしょうか?
 たいていの人は「有限会社」と聞くと、株式会社になれなかった小さな会社というイメージを抱くのではないでしょうか?「合資会社」などと聞くと、正規の法人だと思ってない人もたくさんいるみたいです。
 実際のところ、会社をつくるときに最初から有限会社や合資会社をつくりたいと思っている人は少ないのではないでしょうか。できることなら株式会社をつくりたいと思っているのではないでしょうか。
 ところが金銭的な面や運営面などで、ちょっと無理なので有限会社や合資会社にしました、という人が大多数なのではないでしょうか。
 どの会社をつくるにも同じ金額、同じ条件だったら、世の中はみんな株式会社だらけになると思うのですが。

 イメージに関しては他にも「社名の響き」という問題があります。
 現代はカタカナの会社名を付けるところが多くなっています。このカタカナ部分に漢字の会社の種類を組み合わせると、いわゆる字面が悪くなるということがあります。
 株式会社なら聞き慣れているのでそんなに違和感を感じることはありませんが、有限会社や合資会社という堅い漢字ではけっこう違和感を感じることがあるものです。
 例えば私が「ブルートラベル」という旅行会社をつくるとして、「合資会社ブルートラベル」とか「ブルートラベル有限会社」ではなんかイメージが悪い気がするのですが。

 会社をつくるならば、できれば株式会社にしたい。しかし1000万円の資本金と会社設立費用を用意するのは大変だ。しかも設立・運営ともに手間がかかる。
 それならば有限会社はどうだろう。しかし有限会社の持つイメージを考えると合資会社でも同じではないか。
 確かに合資会社には、無限責任という大きな障害がある。しかし設立の費用の安さや、手間がかからないことは大きな魅力だ。運営もとても楽そうだ。この際、イメージの問題などは無視して、合資会社にしてしまえと考えはじめたりするわけです。
 しかし、ちょっと待ってほしい。もっとグローバルな考え方をしてみてはいかがでしょうか。何も会社は「日本でつくらなくてはいけない」ということはないのです。

 


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